アルバイト遍歴(その6)

アルバイト

花屋さんのアルバイト…のはずだった

高校時代の同級生にY君という友人がいました。

身長は180cmを優に超え、甘いマスクの剣道部員。いつも背筋をピンと伸ばして風を切るように歩く姿は、とにかく格好いい。

しかも、名古屋でも指折りの老舗花屋さんの息子です。

「イケメン」「長身」「お金持ち」。

今なら少女漫画の主人公みたいな設定ですが、当時も当然モテモテでした。

そんな彼と、半世紀近く経った今でも付き合いが続いているのですから、不思議なご縁です。

専門学校へ通っていた頃、そのY君から一本の電話がありました。

「うちの仕事、手伝ってくれない?」

花屋さんのアルバイト?

正直、私のイメージとは少し違います。

どちらかといえば私は体力勝負の仕事が似合うタイプです。

それでも、「店先で花を売る可愛い店員さんと知り合えるかもしれない。」という、若者らしい淡い期待を胸に引き受けました。

ところが、お店へ着くなり期待はあっさり打ち砕かれます。

「こっち、こっち。」

案内されたのは、おしゃれな店先ではなく離れた倉庫。

そこには花が山のように積み上げられ、次々とトラックへ積み込まれています。

そして周りを見渡せば……

いるのは、おじさん、おじさん、またおじさん(笑)。

「お~、いいところへ来た! 君みたいに力のありそうなのを待っとったんだ!」

その一言で、私が呼ばれた理由を悟りました。

花屋さんの仕事は、花束を作って店頭で売るだけではありません。

結婚式の会場を飾る花。

そして、お葬式の生花祭壇や生花スタンド。

特に名古屋では、昔から花輪ではなく豪華な生花スタンドを並べる風習がありました。

会社の会長さんや地元の名士が亡くなると、何百基もの生花スタンドが並ぶことも珍しくありません。

しかも、お葬式は待ってくれません。

限られた時間の中で、何百もの生花スタンドを運び、組み立て、飾り付ける。

まさに時間との勝負です。

そして式が終われば、今度は撤収作業。

名古屋では飾った花を近所の人が持ち帰る風習もありました。

だから、皆さんが持って行く前に、少しでも多く片付けなければならない。

これまた時間との勝負。

「花屋さん」と聞いて思い浮かべる優雅なイメージとは正反対。

現場はまるで引っ越し屋さん顔負けの力仕事でした。

その日以来、大きなお葬式が入るたびにY君から電話が鳴ります。

「悪いけど、また頼むわ。」

つまり私の役割は、「花を愛でる係」ではなく、「生花スタンドを運ぶ係」。

なるほど、だから私に声が掛かったわけです(笑)。

今思えば、アルバイトの募集広告には「花屋さん」としか書いてありませんでした。

確かに間違いではありません。

でも、私が運んでいたのはロマンではなく、生花スタンドでした。

こうしてまた一つ、「見た目のイメージだけで仕事を選んではいけない」という人生の教訓を、若いうちにしっかり学んだのでした。

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