夏のアルバイト
炎天下の配達と、しゃべる仕事
学生時代の夏休みは、とにかく暑かった。
…いや、今ほどではなかったのかもしれませんが、エアコンが今ほど普及していない時代です。暑いものはやっぱり暑い。
そんな夏の定番アルバイトといえば、デパートのお中元配達でした。
学区内にデパートの配送センターがあり、お中元シーズンになると学生アルバイトを大量募集します。
私も毎年のようにお世話になりました。
配達に使うのは、もちろん自転車。

こんな重そうな自転車の後ろに大きな大きな篭を乗せて、
その中へ荷物をこれでもかと積み上げます。
お菓子くらいならかわいいものですが、一番の難敵はビールやカルピスの瓶詰めセット。
これが重い。
重心は高い。
自転車はフラフラ。
今なら「これ、本当に走って大丈夫?」と言われそうですが、当時はそれが当たり前でした。
真夏の炎天下を汗だくになって走り回り、ようやく一軒配達を終える頃にはシャツはびっしょり。
そんな時、お届け先の奥様が
「暑かったでしょう。ちょっと休んでいきなさい。」
と、冷たい麦茶を出してくださることがありました。
あの一杯の麦茶が、どれほど美味しかったことか。
今でも忘れられません。
配達は一個50円ほどの歩合制。
配送センターで地域ごとに荷物を受け取り、ゼンリンの地図を片手に一軒一軒回ります。
朝から頑張れば、一日5,000円くらいにはなりました。
ただし、配達先は自宅の近所を避けるようにしていました。
理由は簡単です。
同級生や知り合いに会うのが、ちょっと恥ずかしかったから(笑)。
若い頃というのは、妙なところで見栄を張るものです。
もう一つ、夏の定番だったのがスーパーの試食販売。
業界では「マネキン」と呼ばれる仕事です。
もちろん、人形になるわけではありません(笑)。
商品の説明をしながら、お客様に試食を勧める販売スタッフのことです。
夏場は「プリンの素」や「フルーティー」といったデザート商品、ホームセンターでは蚊取り線香や殺虫剤などの販売を担当しました。
この仕事は、とにかく恥ずかしがっていては務まりません。
「いかがですか?」
「今日はこちらがお買い得ですよ。」
笑顔でどんどん話しかける。
最初は勇気がいりましたが、不思議なもので、慣れてくるとお客様との会話が楽しくなってきます。
「この人は買ってくれそう。」
「この人は急いでいるから声を掛けないほうがいい。」
そんなことが、少しずつ分かるようになるのです。
しかも、こちらは冷房の効いた店内。
炎天下を自転車で走り回るお中元配達に比べれば、まさに天国でした(笑)。
日当制なので、「今日はあと何個配らなきゃ…」と焦ることもありません。
もっとも、よく売る販売員にはメーカーから「またお願い」と声が掛かるので、やはり結果はちゃんと見られていました。
振り返ってみると、このマネキンのアルバイトは、その後の人生で一番役に立った仕事かもしれません。
初対面の人にも気軽に話しかけられること。
相手の反応を見ながら話を組み立てること。
そして、「人は何に心を動かされて買うのか」を肌で感じられたこと。
教科書では学べないことを、アルバイトが教えてくれました。
学生時代は、お金を稼ぐために始めたアルバイトでしたが、今思えば、どの仕事も社会勉強の連続でした。
汗だくで自転車をこいだ夏も、笑顔で試食を勧めたスーパーの店頭も、今の自分を少しずつ作ってくれた、大切な「人生の実習」だったような気がします。


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