アルバイト遍歴(その7)

アルバイト

夏のアルバイト

炎天下の配達と、しゃべる仕事

学生時代の夏休みは、とにかく暑かった。

…いや、今ほどではなかったのかもしれませんが、エアコンが今ほど普及していない時代です。暑いものはやっぱり暑い。

そんな夏の定番アルバイトといえば、デパートのお中元配達でした。

学区内にデパートの配送センターがあり、お中元シーズンになると学生アルバイトを大量募集します。

私も毎年のようにお世話になりました。

配達に使うのは、もちろん自転車。

こんな重そうな自転車の後ろに大きな大きな篭を乗せて、

その中へ荷物をこれでもかと積み上げます。

お菓子くらいならかわいいものですが、一番の難敵はビールやカルピスの瓶詰めセット。

これが重い。

重心は高い。

自転車はフラフラ。

今なら「これ、本当に走って大丈夫?」と言われそうですが、当時はそれが当たり前でした。

真夏の炎天下を汗だくになって走り回り、ようやく一軒配達を終える頃にはシャツはびっしょり。

そんな時、お届け先の奥様が

「暑かったでしょう。ちょっと休んでいきなさい。」

と、冷たい麦茶を出してくださることがありました。

あの一杯の麦茶が、どれほど美味しかったことか。

今でも忘れられません。

配達は一個50円ほどの歩合制。

配送センターで地域ごとに荷物を受け取り、ゼンリンの地図を片手に一軒一軒回ります。

朝から頑張れば、一日5,000円くらいにはなりました。

ただし、配達先は自宅の近所を避けるようにしていました。

理由は簡単です。

同級生や知り合いに会うのが、ちょっと恥ずかしかったから(笑)。

若い頃というのは、妙なところで見栄を張るものです。


もう一つ、夏の定番だったのがスーパーの試食販売

業界では「マネキン」と呼ばれる仕事です。

もちろん、人形になるわけではありません(笑)。

商品の説明をしながら、お客様に試食を勧める販売スタッフのことです。

夏場は「プリンの素」や「フルーティー」といったデザート商品、ホームセンターでは蚊取り線香や殺虫剤などの販売を担当しました。

この仕事は、とにかく恥ずかしがっていては務まりません。

「いかがですか?」

「今日はこちらがお買い得ですよ。」

笑顔でどんどん話しかける。

最初は勇気がいりましたが、不思議なもので、慣れてくるとお客様との会話が楽しくなってきます。

「この人は買ってくれそう。」

「この人は急いでいるから声を掛けないほうがいい。」

そんなことが、少しずつ分かるようになるのです。

しかも、こちらは冷房の効いた店内。

炎天下を自転車で走り回るお中元配達に比べれば、まさに天国でした(笑)。

日当制なので、「今日はあと何個配らなきゃ…」と焦ることもありません。

もっとも、よく売る販売員にはメーカーから「またお願い」と声が掛かるので、やはり結果はちゃんと見られていました。

振り返ってみると、このマネキンのアルバイトは、その後の人生で一番役に立った仕事かもしれません。

初対面の人にも気軽に話しかけられること。

相手の反応を見ながら話を組み立てること。

そして、「人は何に心を動かされて買うのか」を肌で感じられたこと。

教科書では学べないことを、アルバイトが教えてくれました。

学生時代は、お金を稼ぐために始めたアルバイトでしたが、今思えば、どの仕事も社会勉強の連続でした。

汗だくで自転車をこいだ夏も、笑顔で試食を勧めたスーパーの店頭も、今の自分を少しずつ作ってくれた、大切な「人生の実習」だったような気がします。

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