実家の後始末ができずに困っている人が多い――そんな話を耳にして、「ああ、うちもそうだったな」としみじみ思った今日この頃。
というわけで、最近は“なんとなく”ではなく、“本気の断捨離”を考え始めている。
クローゼットには1年以上袖を通していない服たち。
かつての相棒だった音楽CDや、大好きで何度も観た落語のDVD。
趣味で集めた切手や小銭に、母が気に入って買っていた絵画まで。
どれもこれも「思い出補正」が強すぎて、なかなか手放せない。
でも、現実はなかなかシビアである。
そして、その断捨離の“ラスボス”が――実家そのものだった。

母は90歳を過ぎて高齢者施設へ。
実家は見事に空き家デビューを果たした。
一年に数回、私が帰省しては草を抜き、窓を開け、空気を入れ替える。
まるで「家の呼吸リハビリ」である。
しかし、遠方に住んでいる身としては、いつまでも続けられるわけもない。
「これは…いよいよ売るしかないか」
そう決意し、片付けの合間に地元の不動産屋さんへ飛び込んだ。
すると開口一番、
「うーん、小さいし駐車場1台だし…売るのはちょっと難しいですね」
いきなりの現実パンチ。
しかし続けて、
「でも、うちで買い取ってリフォームして貸すことはできるかもしれません」
とのこと。
正直こちらは「タダでもいいか…」くらいの気持ちだったので、
まさに渡りに船。むしろ豪華客船レベルである。
…が、ここからが本当の試練だった。
まず最大の壁。
名義は母。でも母は施設。しかも認知あり。
印鑑証明を取るだけで、まるでRPGのサブクエスト並みの手順が必要だった。
- 委任状を書く
- 役場に申請
- 役場から母の住所(=空き家)に確認書が届く
- それに母が署名
- 再度役場へ提出
…いや、郵便、誰が受け取るの?問題発生。
ここで私はちょっとだけ頭を使った。
役場に「いつ投函されます?」と確認し、
郵便局には「明日取りに来ます」と根回し。
ミッション成功。
翌日、無事に確認書を回収。
まるでスパイ映画の受け渡しシーンである(※実際は地味)。
その後、母に署名してもらい、ようやく印鑑証明ゲット。
そして最終関門。
「本人の意思確認が必要です」
とのことで、不動産屋さん+司法書士+私+母の面会イベント発生。
しかしその時期は、あのコロナ禍ど真ん中。
施設は面会禁止。
ここはもう、お願い力をフル発動。
事情を説明し、なんとか特別に許可をいただいた。
いざ本番。
事前に不動産屋さんには
「余計なことは言わず、私に合わせてください」とお願いしていたのだが…
第一声がこれ。
「この度は売却ありがとうございます」
……やめてくれぇぇぇぇ!!
案の定、母の頭に「売却」というワードがヒット。
話が一気にカオス化。
内心バクバクしながら、話題をスライド。
別の話に持っていくと、さっきの話はリセットされるという
認知症ならではの“仕様”に助けられ、なんとか着地。
すべて終わったあと、思わずひとこと。
「ふぅーーーーー…」
いや本当に、
綱渡りどころか“風の強い日の綱渡り”みたいな三日間だった。
実家の片付けって、物だけじゃない。
手続き、感情、タイミング、全部が絡んでくる。
でも一つ言えるのは、
「そのうちやろう」は、だいたい来ない。
少しずつでもいいから、
できるところから手をつけておくのが一番だな…と実感したのでした。

のちに、実家の在ったところを見に行ってみると、リフォームするはずが、リフォームされておらず、更地になっていた。


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