幻のポークライス物語 その6

アルバイト

気がつけば、大所帯

こうして、一気に4人もアルバイト生が増えました。

おかげで、シフトのローテーションにもかなり余裕が出てきました。

それまで登場した鈴木さん、広パッチ、井出坊。

そこへ林田、穴井健二、松本、切木……。

こうして並べてみると、

いったい何人いるんだ?

というくらいの大所帯です。

小さなポークライスのお店なのに、ずいぶんと人間だけは揃っていました。(笑)


営業が終わると、寮が酒場になる

そして、この時代を語るうえで忘れられないのが、お店の寮です。

仕事が終わる。

お店を閉める。

そして寮に帰る。

すると――。

毎晩のように飲み会。

お酒を飲みながら、くだらないバカ話。

そして、人生相談。

恋愛相談。

将来の話。

時には、真面目な話。

もちろん、翌日になれば忘れてしまうような話もたくさんありました。

でも、それで良かったのだと思います。

あの頃は、みんな若かった。

お金はない。

将来はまだ分からない。

恋愛にも悩む。

仕事にも悩む。

それでも、みんなで酒を飲みながら、ワイワイ騒いでいる。

今思えば、

まさに青春そのもの。

ポークライスを作って、お客さんを増やして、お店を繁盛させる。

その一方で、夜になれば学生たちとくだらない話をして酒を飲む。

そんな毎日でした。


そして、みんな旅立っていった

やがて彼らは大学を卒業し、それぞれの道へ進んでいきました。

就職して、全国へ。

中には、さらに遠くへ。

まさに、

日本全国、いや、全世界へ羽ばたいていった若者たちです。

あの頃、寮で酒を飲みながら騒いでいた学生たちが、今ではみんな還暦を過ぎました。

もう、

「若者」ではありません。

立派な、

ご隠居さんの年齢です。(笑)

ところが、不思議なことに。

何十年経っても、私が声をかけると、みんな集まってくれる。

そして、集まった瞬間、

昔と同じ顔になる。

歳だけは取っている。

髪の毛も減っている。

お腹も出ている。

でも、中身はあの頃のまま。

そして何より面白いのは――。

最初に刷り込まれた上下関係だけは、何十年経っても変わらない。

これは実に不思議なものです。

社会に出れば、それぞれ立派な仕事をしてきた人たち。

会社では部下を持ち、役職に就き、責任ある立場になった人もいる。

それでも、私の前に来ると、

あの頃のアルバイト生。

「はい、分かりました!」

……となる。(笑)

人間関係というものは、最初にできた形が、案外ずっと残るものなのですね。


幻のポークライスが残してくれたもの

こうして振り返ると、「幻のポークライス」という料理そのものは、もう無くなってしまいました。

お店もなくなりました。

あの頃の街の風景も変わりました。

そして、みんな歳を取りました。

でも――。

思い出は、なくなりません。

ポークライスを作ったこと。

お客さんを増やそうと苦労したこと。

お店を改装したこと。

そして、そこで一緒に働いた若者たち。

笑ったこと。

飲んだこと。

悩みを聞いたこと。

くだらない話をしたこと。

時には、叱ったこと。

そんな一つ一つの出来事が、今でも私の中に残っています。

考えてみれば、あの小さなお店は、

ポークライスを売る場所だっただけではなかった。

たくさんの若者たちが集まり、巣立っていった、

青春の交差点

だったのかもしれません。

「幻のポークライス物語」と題して書き始めましたが、気がつけば、料理の話より人間の話のほうが多くなってしまいました。

でも、それでいいのかもしれません。

料理は消えても、

人との縁や、思い出は残る。

あのポークライスが、私に残してくれた一番大きなものは、もしかすると「味」ではなく、

人だったのかもしれません。

そんな青春の思い出が、ぎゅっと詰まった――

幻のポークライス物語でした。

おしまい……?

……いや。

こうして書いていると、まだまだ思い出が出てきそうです。

さて、どうしましょう。

「その7」は、あるのか?(笑)

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