「男子十歳にして旅に出る」…の前に、親父も旅に出ていた話
我が家には、ちょっと変わった家訓があります。
その名も――
「男子十歳にして旅に出る」
…とは言っても、由緒ある家系に代々伝わる教えでも何でもなく、実は私が勝手に始めたオリジナル家訓です。
子どもを育ててみると、母親と子どもの関係って、本当に特別なんですよね。過ごす時間も長いし、愛情の深さも種類も違う。
だからこそ、「父親にしかできない時間」を作りたかった。
そこで決めました。
息子が10歳になったら、親父と二人で“男の旅”に出る。
さて、長男とどこへ行こうか――と考えた時、ふと思い出したのです。
そういえば自分も、18歳の頃に“自分探しの旅”なんてものをしていたなぁ、と。
大学受験に失敗し、浪人一年目。
特に夢も目標もなく、「まあ、成績で行ける大学でいいか」くらいの、ぼんやりした毎日。
しかし、ある日ふと思ったのです。
「こんなんじゃ、いかん!」
若さ特有の“突然の哲学モード”ですね。
「もっと自分を見つめ直したい!」
そうして始まったのが、人生初の放浪旅でした。

時は9月。
「どうせなら寒い場所に行こう」という、なかなか雑な理由で、目的地は北海道に決定。
海外?
いやいや、お金も度胸もない。
所持金、たったの1万円。
今ならコンビニATMすら心の支えになりますが、当時はそんな便利なものもありません。
母親に「旅に出る」と伝えると、
「行っといで。気が済むまで帰ってきなさんな」
…え、止めないの?
親の器が大きいのか、息子への信頼なのか、それとも放任なのか。
今となっては謎です。
名古屋駅で函館までの切符を買うと、4920円。
残金、ほぼ半分。
もちろん新幹線なんて贅沢品。
鈍行列車を乗り継ぐ、青春ど真ん中の貧乏旅です。
函館まで三日間。
見送りには、中学時代の友人・平光と長谷川。
この二人、数十年経った今でも腐れ縁が続いています。人生って面白い。
初日は名古屋から東京へ。
そこから山手線で上野駅へ向かいます。
当時、東北本線は上野始発。
しかも終電後は駅が閉まるという、今ではちょっと考えられない時代でした。
仕方なく、上野近くの深夜喫茶で朝を待つことに。
一人で本を読んでいると、隣のおじさんが話しかけてきました。
「どこ行くの?」
「北海道です」
「ほぉ~、気をつけてな」
優しい人だなぁ…と思っていた、その30分後。
店員さんがやって来る。
「高江さん、お電話です」
…え?
この店にいること、誰も知らないんだけど?
電話に出ると、さっきのおじさん。
「せっかくだから上野を案内してあげるよ」
いや怖い怖い怖い怖い。
18歳の私は、全力でお断りしました。
しかし恐怖は終わらない。
しばらくすると、そのおじさん本人が店に登場。
店員さんに事情を話して、奥にかくまってもらうという、もはやサスペンス映画展開です。
結局、深夜3時ごろに店を出て、上野駅前の交番横で始発を待つことに。
眠れない。
寒い。
怖い。
しかし――
当時の私は、まだ18歳の美少年だったのである。

こうして、“自分探しの旅”は、初日からスリル満点で幕を開けたのでした。


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