笹島で学んだ「人は見かけによらない」
冬は白馬のスキー場でアルバイトをしていましたが、では夏休みは何をしていたのか。
実は、決まった仕事はありませんでした。
その日その日の仕事を探す、いわゆる日雇い人夫です。

昭和40年代、名古屋駅の近くに「笹島」という場所がありました。
夜明け前になると、仕事を求める人たちが三々五々集まってきます。
そこへ一台、また一台と手配師の車がやって来る。
今なら問題になりそうですが、当時は「人買い」とも呼ばれていた時代です。
「おい、お前!」
そう声を掛けられた人から車に乗り込み、その日の仕事場へ向かいます。
学生だった私も、その中に混じっていました。
仕事の内容は実にさまざま。
土木工事でスコップを振る日もあれば、港で荷物を積み込んだり、自動車運搬船で車を固定したり。
運が良ければ、ベルトコンベアに時々荷物を載せるだけという、「今日は当たりだ!」と思える現場もありました。
逆に、真夏の炎天下で一日中スコップを持つ日には、
「今日はハズレを引いたなあ……。」
と、朝から覚悟を決めることになります(笑)。
それでも日当は4,000~5,000円ほど。
学生アルバイトとしては、かなり魅力的な金額でした。
朝6時過ぎに手配師の車へ乗り込み、8時から仕事開始。
10時には一服、12時は昼休み、15時にはおやつ休憩。
今思えば、意外ときちんと休憩時間があったものです。
もちろん仕事は楽ではありませんが、体力的にどうにもならないというほどでもありませんでした。
このアルバイトで一番印象に残っているのは、仕事そのものではありません。
そこに集まる人たちです。
故郷を離れたまま帰れなくなった人。
博打で身を持ち崩した人。
背中に立派な入れ墨を背負った人。
学生だった私から見れば、「映画の中でしか見たことがないような人たち」が、ごく普通に隣で働いていました。
最初は正直、少し怖かったですね。
ところが、一緒に汗を流して話をしてみると、これが実に気さく。
休憩時間には缶コーヒーをごちそうしてくれたり、
「学生か。しっかり勉強しろよ。」
などと声を掛けてくれたり。
見た目とのギャップに驚かされることが何度もありました。
「人は見かけで判断してはいけない。」
この言葉を本当に実感したのは、教室ではなく、笹島の現場だったような気がします。
今思えば、学生時代に経験したアルバイトは、どれも単なるお小遣い稼ぎではありませんでした。
スキー場ではサービス業を学び、ちり紙交換では商売の難しさを知り、そして日雇い人夫では社会のさまざまな人たちと出会いました。
大学では専門知識を学びましたが、社会のことはアルバイトが教えてくれたように思います。
汗を流して働いた現場の数だけ、人を見る目も少しずつ育っていったのでしょう。
あの夏、笹島で過ごした日々は、お金以上に貴重な「人生の授業料」だったのかもしれません。


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