アルバイト遍歴(その5)

アルバイト

笹島で学んだ「人は見かけによらない」

冬は白馬のスキー場でアルバイトをしていましたが、では夏休みは何をしていたのか。

実は、決まった仕事はありませんでした。

その日その日の仕事を探す、いわゆる日雇い人夫です。

昭和40年代、名古屋駅の近くに「笹島」という場所がありました。

夜明け前になると、仕事を求める人たちが三々五々集まってきます。

そこへ一台、また一台と手配師の車がやって来る。

今なら問題になりそうですが、当時は「人買い」とも呼ばれていた時代です。

「おい、お前!」

そう声を掛けられた人から車に乗り込み、その日の仕事場へ向かいます。

学生だった私も、その中に混じっていました。

仕事の内容は実にさまざま。

土木工事でスコップを振る日もあれば、港で荷物を積み込んだり、自動車運搬船で車を固定したり。

運が良ければ、ベルトコンベアに時々荷物を載せるだけという、「今日は当たりだ!」と思える現場もありました。

逆に、真夏の炎天下で一日中スコップを持つ日には、

「今日はハズレを引いたなあ……。」

と、朝から覚悟を決めることになります(笑)。

それでも日当は4,000~5,000円ほど。

学生アルバイトとしては、かなり魅力的な金額でした。

朝6時過ぎに手配師の車へ乗り込み、8時から仕事開始。

10時には一服、12時は昼休み、15時にはおやつ休憩。

今思えば、意外ときちんと休憩時間があったものです。

もちろん仕事は楽ではありませんが、体力的にどうにもならないというほどでもありませんでした。

このアルバイトで一番印象に残っているのは、仕事そのものではありません。

そこに集まる人たちです。

故郷を離れたまま帰れなくなった人。

博打で身を持ち崩した人。

背中に立派な入れ墨を背負った人。

学生だった私から見れば、「映画の中でしか見たことがないような人たち」が、ごく普通に隣で働いていました。

最初は正直、少し怖かったですね。

ところが、一緒に汗を流して話をしてみると、これが実に気さく。

休憩時間には缶コーヒーをごちそうしてくれたり、

「学生か。しっかり勉強しろよ。」

などと声を掛けてくれたり。

見た目とのギャップに驚かされることが何度もありました。

「人は見かけで判断してはいけない。」

この言葉を本当に実感したのは、教室ではなく、笹島の現場だったような気がします。

今思えば、学生時代に経験したアルバイトは、どれも単なるお小遣い稼ぎではありませんでした。

スキー場ではサービス業を学び、ちり紙交換では商売の難しさを知り、そして日雇い人夫では社会のさまざまな人たちと出会いました。

大学では専門知識を学びましたが、社会のことはアルバイトが教えてくれたように思います。

汗を流して働いた現場の数だけ、人を見る目も少しずつ育っていったのでしょう。

あの夏、笹島で過ごした日々は、お金以上に貴重な「人生の授業料」だったのかもしれません。

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