~徳川埋蔵金より手強いかもしれない~
「箸」という字は竹冠に“者”と書きます。
その字のとおり、お箸の原点は竹だったのではないかと私は思っています。
竹は割ると気持ちよくパカッと割れます。その割れた竹を細く削れば、立派なお箸の完成です。
簡単そうに見えますが、これがなかなか奥深い。
お箸を削る作業は単純です。しかし、単純な仕事ほどごまかしが効きません。一本一本に職人の腕が出るのです。
青竹箸の美しさ

私が特に惹かれたのは、切り出したばかりの青竹で作る「青竹箸」です。
みずみずしい緑色。
軽くてしなやか。
しかも食材が滑りにくい。
茶懐石や祝いの席で使われる理由がよく分かります。
九州では、お正月に新しい青竹箸を使って新年を迎える風習もあります。
まさに「ハレの日」のためのお箸です。
商品化への野望
ある日、私は思いました。
「これ、商売になるんじゃないか?」
職人あるあるの危険な発想です。
さっそく竹藪へ入り、傷のない美しい竹を選びます。
洗って、
切って、
割って、
削って、
一本一本仕上げていきます。
ところが、ここで大問題が発生。
青竹最大の魅力である鮮やかな緑色が、乾くと消えてしまうのです。
まるで恋愛初期のときめきのように、あっという間です。
作業中も水につけ、
削っては水につけ、
また削っては水につける。
完成後は濡れた布で包み、冷凍保存。
もはや箸づくりというより、青竹の集中治療室です。
結婚式場を狙え!
それでも私は諦めませんでした。
「ハレの日の箸なら、結婚式にぴったりじゃないか!」
頭の中では事業計画がどんどん膨らみます。
当時の結婚式は100人規模が当たり前。
100膳納品して、
毎日注文が入って、
月商100万円!
さらに県内へ展開し、
全国へ広げれば・・・
年商10億円!!
もう頭の中では青竹御殿が建っていました。
現実という名の門前払い
意気揚々とサンプルをクーラーボックスに詰め込み、結婚式場へ営業に出かけました。
結果は・・・
ほぼ全滅。
門前払い。
たまに話を聞いてくれても、
「検討してみましょう。」
という、営業マンなら誰もが知る優しいお断り文句。
夢の10億円は、まだ竹藪の中に埋まったままでした。
今考えれば当然だった
冷静に考えると、結婚式場側にも事情があります。
青竹箸は生もの。
衛生管理が大変です。
もし万が一、お箸が原因で食中毒でも起きたら大事件。
さらに普通の割り箸なら安価で使い捨て。
宴会中にお客様が落としても、すぐ交換できます。
青竹箸は美しい。
でも、美しいだけでは事業にならないのです。
青竹伝説の先人
そんなある日。
私に荒物籠づくりを教えてくれた油布さんと話をしていました。
何気なく、
「昔、青竹箸の缶詰を作ろうとした人がいたそうですね。」
と聞いてみると、
油布さんは少し照れながら、
「それはワシじゃ。」
と答えました。
なんとご本人登場です。
幻の青竹箸缶詰
話を聞くと、油布さんは本気で青竹箸の缶詰事業を考えていたそうです。
工場まで計画し、
籠づくりを辞めて挑戦する覚悟もあった。
しかし銀行が融資してくれず、計画は幻に終わったのだとか。
私は思わず笑ってしまいました。
そして同時に妙な親近感も覚えました。
青竹に魅せられた男たち
どうやら青竹箸には、人を夢見させる何かがあるようです。
私も夢を見ました。
油布さんも夢を見ました。
きっと他にもいるでしょう。
青竹の美しい緑に魅せられ、
「これは大事業になる!」
と胸を躍らせた人が。
徳川埋蔵金を探す人が後を絶たないように、
青竹箸にもまた、幻の財宝のような魅力があります。
もしかすると今この瞬間も、どこかで誰かが青竹を眺めながら、
「これ、絶対に商売になるぞ・・・」
と夢を膨らませているかもしれません。(笑)
次回は、こんなに大きな夢ではありませんが、ちょっと成功した青竹箸の話。


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