ぬいぐるみのお家を作るまで

作品紹介

―― 一本の電話から始まった、特別な竹籠の物語 ――

2023年7月。
一本の問い合わせ電話から、このオーダーは始まりました。

「ぬいぐるみを入れる籠を作って欲しいんです。」

詳しくお話を伺うと、そのぬいぐるみは、亡くなられた奥様が大切にされていたもの。
結婚する時にも唯一持って来られた、思い出深い熊のぬいぐるみだそうです。

その大切な“お家”となる竹籠を作ってほしい――。
そんなご依頼でした。

イメージを形にする難しさ

オーダー制作で最も大切なのは、「お客様が思い描くもの」をどれだけ共有できるかです。

通常、竹籠を注文される方は、ある程度竹籠について知識をお持ちです。
しかし今回のお客様は、竹籠についてほとんどご存じありませんでした。

だからこそ、イメージをすり合わせる作業は簡単ではありませんでした。

まず決めなければならないのはサイズ。
入れるものが決まっている以上、大きすぎても小さすぎてもいけません。

そこで厚紙で模型を作り、実際にぬいぐるみを入れて確認していただくことにしました。
お話で聞いていたサイズで作ったものの、最終的には各辺を約2cm小さく調整することになりました。

「明かりが入る籠にしたい」

次に悩んだのが、編み方です。

工房を代表する「網代編み」をイメージしていましたが、お客様からこんなご要望がありました。

「ぬいぐるみが真っ暗にならないように、明かりが入るようにしたい。」

しっかりした籠でありながら、光も通したい。
一見すると相反するご要望に、頭を抱えました。

何度もメールでやり取りを重ねる中で、お客様が旅行先のホテルで見かけた座椅子の写真を送ってくださいました。

そこに使われていたのは「四ツ目編み」。

なるほど、これなら光が差し込みます。

しかし今度は、その“細かさ”を決める必要があります。
細かさによって、見た目も手間も大きく変わり、価格も変わります。
場合によっては10倍以上違うこともあります。

そこで、細かさの異なるサンプルを6種類ほど制作。
実際に見比べながら、一つひとつ決めていきました。

見えない部分こそ大切

さらに確認が必要だったのが「縁」の仕様です。

竹籠は、編み終わった部分を仕上げるために縁を付けます。
その分、内寸が少し狭くなるのです。

今回は蓋付きの籠だったため、縁の厚みや蓋の納まりも重要でした。

言葉だけでは伝わりにくいため、再び厚紙模型を制作。
今度は実際の竹の縁を付けた状態で確認していただきました。

持ち歩ける籠へ

最後に決めたのが持ち手です。

「旅先にも持って行きたい」

そんなご希望から、固定式ではなく、左右に倒せる可動式の持ち手をご提案しました。

こうしてようやく、

  • サイズ
  • 形状
  • 編み方
  • 編み目の細かさ
  • 持ち手

すべてが決定。

制作開始までに、実に4か月。
実際の制作期間は約2週間でしたが、ものづくりは「作る前」が何より大切なのだと、改めて感じました。

ぬいぐるみと共に旅をする籠

2023年12月、無事に年内納品。

お客様は全国を仕事で飛び回る方で、今ではどこへ行くにも、その竹籠にぬいぐるみを入れて連れて行ってくださっているそうです。

後日、Facebookで繋がった際、こんなメッセージをいただきました。

「旅先で竹籠に目を留めて話しかけられることがよくあります。」

ある日、九州を走る観光列車「36ぷらす3」の中で、こんな出来事があったそうです。

「素敵な籠ですね。」

そう声を掛けられ、奥様が大切にしていた熊のぬいぐるみの話をされたとのこと。

竹籠の中で静かに座る熊さんと共に旅をする――。
その光景に、周囲の方も心を温められたそうです。

一つの籠がつないだご縁

今回、オーダー品が完成するまでを振り返ってみました。

一つの竹籠を作るまでには、たくさんの対話と試行錯誤があります。
けれど、その先には人との出会いや、思い出をつなぐ時間が生まれます。

この籠もまた、新しいご縁を運んでくれているようです。

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