値上がりラッシュの、その先にあるもの
いや~~~、最近の世の中、何でもかんでも高くなっていて、ビックリしますね。
まずは食べ物。
「今日のお昼は500円くらいで……」なんて、以前ならそれほど難しい話ではなかったはずなのに、今ではハンバーガーですら、セットで390円とか450円とか言っていた時代が、遠い昔のように感じます。
今やバーガー単品で500円超え。
「お昼ご飯、1000円くらい覚悟しておこうかな」
……となると、もはや昼飯にも心の準備が必要です(笑)。
そんな値上がりラッシュの中、今回は食べ物ではなく、私たちが仕事で使っている**「道具」**のお話です。
漆刷毛を注文しようとしたら……
私のところでは、毎年新しい弟子が入ってくることもあり、漆屋さんに漆刷毛を10本ずつ注文していました。
ところが昨年、3人の弟子が入ったことで、予備の刷毛がすっかり無くなってしまいました。
「そろそろ注文しないとな」
ということで、久しぶりに漆屋さんのホームページを見てみると……
「えっ……?」
思わず二度見。
いや、三度見くらいしたかもしれません。
刷毛の値段が、以前とは比べものにならないほど上がっているではありませんか。
しかも、あちらを見ても「SOLD OUT」、こちらを見ても「SOLD OUT」。
値段が上がっているだけではありません。
そもそも、物がない!
慌てて担当者に電話してみると、
「最近は値段がどんどん上がっています。その上、次はいつ入るか分からないんですよ」
とのこと。
う~~~ん。
値上がりも困りますが、**「買いたくても買えない」**となると、話はさらに深刻です。
私が40年使い続けている漆刷毛
漆刷毛にはいろいろな種類がありますが、私のところで40年間ずっと使い続けているのが、
「人毛全通寸五」
というタイプです。
「漆刷毛」と聞くと、漆職人さんが刷毛を使って、漆を薄く、丁寧に、ゴミひとつ付けないように塗っている姿を想像されるかもしれません。
もちろん、そういう使い方もあります。
ただ、私のところは少し違います。
篭に漆を刷毛で刷り込むように塗っていき、その後、均一になるようにブラシで散らします。
そして、いったん布で漆を拭き取る。
「えっ? せっかく塗ったのに、拭き取るの?」
と思いますよね。
私も初めて聞いた人には、そう言われることがあります(笑)。
でも、ちゃんと意味があるんです。
表面の漆を拭き取ったように見えても、漆は生地の中へしっかり染み込んでいます。
これによって、篭に強度が出て、さらに艶も出てくる。
その後、「イボタ」と呼ばれる特殊な蝋の粉を塗り込んで仕上げていきます。
一見すると「塗って、拭いて……何をしているんだ?」という作業ですが、これが大切なんですね。
そもそも「人毛全通」って何?
漆刷毛は、普通の刷毛とはちょっと違います。
先端から柄尻まで、一本物の毛が通っていて、使って毛先がすり減ってくると、柄を少しずつ削りながら長く使っていきます。
まさに、使い捨てとは正反対の道具です。
そして毛には、細くてしなやかな「人毛」が使われています。
なぜ人毛なのか。
人の髪の毛は動物の毛より細く柔らかいため、漆を塗ったときに刷毛目が立ちにくく、なめらかな塗面に仕上がります。
しかも、漆刷毛には全長200mm前後の長い毛が必要です。
昔は海女さんの髪などが良質な材料として使われ、大切に集められていたそうです。
今では、そのほとんどが中国から入ってきているとのこと。
つまり、これもまた、材料が簡単には手に入らなくなっている道具なんですね。
ちなみに「寸五」というのは刷毛の幅のこと。
私のところで使っているのは1寸5分は
つまり4センチちょっとの幅のものです。
そして、気になるお値段は……
ここが今回、一番ビックリしたところです。
5年ほど前、10本購入したときは、1本あたり約1万円でした。
もちろん、これは取引先ということもあって、一般価格よりかなり安くしてもらっていた値段です。
それでも、
「1本1万円かぁ……」
と思っていたのですが。
今回、担当者から言われた値段は……
全通しで1本30,000円。
半通しでも18,000円。
………。
いやいやいや。
ちょっと待ってください。
刷毛ですよ?
もちろん、ただの刷毛ではありません。
40年使っている、大切な道具です。
そう考えれば高いのも分かる。
分かるんですけど……
3万円ですか!
と、心の中では叫びました(笑)。
それでも、在庫があるということでしたので、結局、ある分を全部、5本ほど注文しました。
「高いから、また今度」
なんて言っていたら、次にいつ買えるか分かりません。
高くなるのは値段だけではない
今回、漆刷毛の値段を見ていて、改めて思いました。
世の中の物価は、本当にどんどん上がっています。
でも、それ以上に気になるのが、
「道具そのものが無くなってしまうかもしれない」
ということです。
値段が3倍になったとしても、買うことができれば、まだ何とかなります。
ところが、職人さんが減り、材料を作る人も減り、技術を受け継ぐ人も減っていけば、
「高いけど買える」
ではなく、
「お金を出しても買えない」
という時代が来るかもしれません。
そう考えると、今回の漆刷毛の値上がりは、単なる物価高の話ではないような気がします。
長年使われてきた道具や材料、そして、それを作る技術そのものが、少しずつ細くなっているのかもしれません。
いや~~~、世の中、本当に油断できません。
食料品の値段にもアンテナを立てておかないといけない。
道具の値段にもアンテナを立てておかないといけない。
そして何より、
「無くなる前に買っておけ!」
ということなのかもしれません。
とはいえ、何でもかんでも買っていたら、今度は財布のほうが先に無くなりそうですが……(笑)。
これからは、いつも少し高めにアンテナを立てて、世の中の変化についていかなければならないようです。
漆刷毛5本、合計いくらだったかって?
……そこは、あえて計算しないことにしています(笑)。



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