幻のポークライス物語 その2

アルバイト

――「責任者がいない!」と言ってしまった若者の運命――

前回のお話で、全国のレストラン南山から集められた「精鋭部隊」。

……精鋭たち。

……のはずでした。

ところが、小さなお店に5人も6人も店員がいるのです。

お客さんより店員のほうが多い。

これはもう、精鋭部隊というより「店員展示会」です。

狭い店内にみんなで立っていても仕方がありません。

そこで私たちは、新メニュー「ポークライス」を世に広めるため、チラシを作りました。

近隣の会社へ。

住宅街へ。

とにかく歩いて配る。

そして、

「南山大道店に、新しいどんぶりが登場しました!」

と、お店の宣伝に回る毎日でした。


営業終了後は、毎晩作戦会議

お店の営業時間が終わると、今度はみんなで作戦会議です。

名もない小さなお店を、どうやって変えていくのか?

どうすればお客さんを増やせるのか?

お客さんは楽しんでくれているのか?

もっとメニューを増やせないか?

ああでもない。

こうでもない。

試行錯誤の連続です。

もちろん、新しいメニューを作ったからといって、翌日からお客さんが行列を作るわけではありません。

世の中、そんなに甘くない。

確かに、以前のコーヒーショップ時代よりは店内も賑やかになりました。

だって……。

店員がたくさんいるのですから。

3か月。

4か月。

しかし、期待していたほどの成果は出てきません。

「何故なんだろう?」

みんなで考えました。

そして、だんだんと一つの答えが見えてきたのです。


精鋭部隊の、ちょっとした問題

全国から集められたメンバーは、いずれ元の所属店舗へ戻っていきます。

給料も、この大道店から出ているわけではありません。

それぞれの所属店舗から支払われています。

どんなに意気込んでいても、言ってしまえば……。

借り物部隊。

この店に骨を埋める覚悟を持つ「主体者」がいなかったのです。

そんな、なんともモヤモヤした状態が続いていたある日。

ついに私は、言ってしまいました。

当時、集められたメンバーの中では最年少。

そんな私が、思わず口にしたのです。

「ここには責任者がいない!」

さらに、

「責任を取る人がいないんです!」

……。

……あ~~~~~~。

言わなければ良かった。

若さというのは、時に勇気を生みます。

そして時に、自分の首を絞めます。

この一言が、私の運命を大きく変えることになったのです。


気がつけば、二人だけ

それから、全国から集まっていた先輩方は、それぞれの所属店へ帰っていきました。

そして残されたのは……。

私。

そして、地元で採用した新人。

二人だけ。

「責任者がいない!」

と言った結果、

どうやら、

「じゃあ、君がやりなさい」

という流れになったようです。

人生とは、なかなかうまくできています。

いや、できすぎています。

しかし、二人だけではお店は回りません。

そこで、パートの奥さんや学生アルバイトを採用することになりました。

こうして、南山大道店の新しい仲間探しが始まったのです。


最初のアルバイトとの、不思議な出会い

最初に採用したアルバイト生は、今でも忘れられない人です。

当時、大分市内には「芸短」と呼ばれていた大学がありました。

私はアルバイト募集をお願いするため、その大学の人事課を訪ねました。

すると、偶然、学長さんから声をかけられました。

「君、アルバイトは学生でなくてもいいのかい?」

私は答えました。

「はい、別に構いませんが……」

すると学長さん。

「私の知り合いに、一人面白い男がいるんだ。面接してくれないか?」

こうして、後日、一人の男性がお店にやって来ました。

何も言わずに店に入り。

コーヒーを注文し。

席に座っている。

「……お客さんかな?」

と思っていると、しばらくしてから、

「面接に来た坂根です」

と、一言。

先に言ってください。

なかなか個性的な登場でした。


彼を気にかけていた人

後から聞くと、芸短の学長さんはクリスチャンで、別府のルーテル教会の信徒だったそうです。

坂根さんは、その教会の牧師さんのお孫さんだったようです。

少し人見知りするタイプで、世間に馴染むのが苦手だった坂根さん。

そんな彼のことを、学長さんはいつも気にかけていたのでしょう。

そして偶然、私がアルバイト募集の申し込みに来た。

「これはちょうどいい」

と思われたのかもしれません。

人の出会いというのは、本当に不思議なものです。

面接をした時の私の印象は、

「接客は、ちょっと難しいかもしれないな」

でした。

しかし同時に、

「でも、人間は良さそうだな」

とも思いました。

その直感は、間違っていなかったようです。


そして10年後、

坂根さんは、その後、約1年間アルバイトをしてくれました。

そして、ルーテルの神学校へ進みました。

時は流れ……。

なんと10年後。

私の結婚式を挙げてくれた牧師さんは、

あの坂根さんだったのです。

コーヒーを注文して、

しばらく黙って座っていたあの青年が。

「面接に来た坂根です」

と、静かに名乗ったあの青年が。

10年後には、私の人生の大切な節目に立ち会ってくれることになるとは。

あの時、誰が想像したでしょうか。

人生の縁というものは、本当に面白い。

いや、面白いというより……。

ちょっと出来すぎではないでしょうか。


そして、個性派学生たちがやって来る

坂根さんの後には、大分大学の学生たちをアルバイトとして採用することになります。

ところが、これがまた……。

なかなか面白い連中ばかり。

いや、

普通の学生もいたはずです。

たぶん。

しかし、なぜか記憶に残っているのは、個性豊かな人たちばかり。

彼らは南山大道店に、さまざまな出来事と、たくさんのエピソードを残してくれることになります。

幻のポークライスをめぐる物語は、

まだまだ続きます。

そして次回からは、いよいよ個性派アルバイトたちも登場するかもしれません。

つづく

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