― 同じ設定なのに、なぜ同じにならない? ―
後継者育成事業、作業二日目です。
本日は、昨日に引き続き残り5本の竹を磨きながら、竹ヒゴ取りの作業を進めていきます。
今日あたりから、だんだんと作業が専門的になってきます。
「竹を磨く」までは、まあ何となく分かる。
ところがここから先は、
「銑がどうの」
「ナイフがどうの」
「厚みが0.33㎜がどうの」
と、だんだん話が細かくなってきます。
竹細工を知らない方には、少々退屈な話になるかもしれませんが、どうぞお付き合いください(笑)。
まずは、ヒゴの幅を揃えます
今年使う竹ヒゴの幅は4.5㎜。
そこで、2本の切り出しナイフを台に打ち込み、その間隔を4.5㎜に設定します。
その間に竹を通すと、4.5㎜より幅の広い部分が削り取られていきます。
これで、ヒゴの幅が揃っていくわけです。
次は、ヒゴの角を落とします。
今度は2本のナイフを交差させて台に打ち込み、その交差した部分を少し押さえながら竹ヒゴを通します。
すると、ヒゴの角が取れて、丸みを帯びてきます。
角がなくなることで、竹ヒゴの表情が柔らかくなる。
竹も、人間も、角が取れたほうが付き合いやすい……。
まあ、竹の場合は道具で削れば角が取れますが、人間の角はなかなか取れませんな(笑)。
そして「銑引き」
次が、厚みを揃える「銑引き」という作業です。
特殊な銑という刃物と鉄板の間に竹ヒゴを通して、厚みを揃えていきます。
今回の仕上げの厚さは、なんと 0.33㎜。
髪の毛より細かい世界……とまでは言いませんが、とにかく「そんな薄いところまで揃えるの?」という世界です。
しかも、いきなり0.33㎜にするわけではありません。
まず一度、0.45㎜くらいまで大まかに厚みを揃えます。
その後、もう一度銑を引いて、0.33㎜に仕上げます。
「先生、最初から0.33㎜に設定すれば、一回で済むんじゃないですか?」
と思われる方もいるでしょう。
私も、できればそうしたい(笑)。
ところが、そう簡単にはいきません。
銑の刃と鉄板の隙間を0.33㎜にして、竹ヒゴを通したからといって、全部が0.33㎜になるわけではないのです。
銑にかける前の竹ヒゴの厚みによって、仕上がりが変わってしまいます。
厚いヒゴを無理に通せば、銑に食い込んで薄くなってしまう。
つまり、銑にかける前の段階で、できるだけヒゴの厚みを揃えておくことが大切なのです。
だから、
一回目で厚みのムラをなくす。
そして二回目で仕上げの0.33㎜にする。
面倒なようですが、結局このほうがきれいに揃います。
網代編みは「ちょっとの厚み」が命取り
今回作るものは網代編みです。
網代編みは、竹ヒゴを隙間なく詰めて編んでいきます。
ですから、ヒゴのどこかに少しでも厚い部分があると、きれいに目が詰まりません。
特に難しいのが、竹の節の部分。
ここをいかにきれいに、均一に削り取るか。
今日は、このあたりもしっかりと教えていきました。
0.1㎜、0.2㎜の世界を相手にしていると、だんだんこちらの目まで細かくなってくる気がします(笑)。
竹ヒゴだけではありません
竹ヒゴ取りと並行して、竹籠の「縁」を取る作業も進めています。
編みヒゴに比べると、幅も厚みもある縁材。
当然、使う道具も少し変わります。

先ほど紹介した、竹ヒゴの厚みを決める「銑」は、刃物と鉄板の間に竹を通します。
こちらは「刃物と面」の関係。
ところが、太くて厚い材料を作る場合には、「厚引き銑」という道具を使います。
こちらは「刃物と点」。
原理は同じなのですが、竹と接する部分が「面」ではなく「点」になる。
そのため、強い竹を引くときの抵抗が少なく、厚い材料を作るのに向いています。
ただし、面ではなく点ですから、引き方や力の入れ方によって、どうしても個人差が出ます。
「先生、ちょっと薄いです」
今回は人数が多いので、厚引き銑を3台用意しました。
それぞれ、
2.3㎜
1.8㎜
1.5㎜
に設定してあります。
私が道具を設定して、生徒たちに引いてもらいます。
ところが……

「先生、ちょっと見てください。少し薄くなってしまいます」
「先生、こっちはちょっと厚いです」
……。
「えっ?」
「同じ設定ですよ!」
(笑)
道具は同じ。
設定も同じ。
なのに、出来上がってくる厚みが微妙に違う。
なかなか思うようにはいきません。
でも、これこそが天然素材を扱う仕事なんですね。
竹は一本一本、硬さも癖も違います。
だから、
「同じ設定にしたから、同じものができる」
とは限らない。
同じ道具を使って、同じような力で、同じような角度で引く。
その感覚を、何度も何度も繰り返しながら身体に覚え込ませていく。
頭で考えて、手を動かして、身体で覚える
竹細工というと、「手先が器用な人がやるもの」と思われるかもしれません。
もちろん器用さも必要ですが、それだけではありません。
頭で考える。
手を動かす。
失敗する。
また考える。
そして、身体で覚えていく。
結局は、その繰り返しです。
教科書に「力はこのくらい」「角度はこのくらい」と書いてあっても、最後は自分の手で感じ取るしかありません。
だから、後継者育成というのは、単に技術を教えるだけではないのです。
道具の使い方を教えながら、その人自身が「竹の声」を聞けるようになるまで待つ。
……まあ、竹が本当にしゃべり出したら、それはそれで怖いですが(笑)。
今回は、ずいぶん専門的な話になってしまいました。
竹関係の仕事をしている方なら、「なるほど」と思っていただけるかもしれませんが、そうでない方には、
「銑?」
「厚引き銑?」
「0.33㎜?」
と、頭の中に「?」がいっぱい浮かんでいることと思います。
ごめんなさい(笑)。
でも、普段何気なく見ている竹籠も、実はこうした細かい作業の積み重ねで出来上がっています。
一見すると地味な作業ですが、その「地味」の中に、職人の技術と経験がぎゅっと詰まっているんですね。
さて、次回はもう少し分かりやすい話になるのか。
それとも、さらに専門用語が増えてしまうのか……。
私にも、まだ分かりません(笑)。

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