――真面目な青年と、焼き肉怪獣と、実は出世頭――
前回は、私が初めて雇ったアルバイト生について書きました。
そして、そのあとにやって来たのが、大分大学の学生さんたちです。
「アルバイトを募集しよう!」
そう思い立って、大分大学の総務課へ出向き、アルバイト募集の申し込みをしてきました。
今のようにスマホで、
「ポチッ!」
とやれば済む時代ではありません。
とにかく、まずは自分の足で行く。
これが昭和です。(笑)
しばらくすると、一人の学生から連絡がありました。
こうして、南山の小さなポークライス店に、最初の「分大生」がやって来たのです。
最初にやって来たのは、鹿島さん
大分大学には、混声合唱団の**「コール・レティッヒ」**というサークルがあります。
今でも定期演奏会を開催するなど、地域に根差した活動をしているようです。
その合唱団から、一人の学生が応募してきました。
鹿島さんです。
彼は、見るからに真面目。
そして、理知的。
いかにも、
「この人、ちゃんと勉強してきましたよ」
という顔をしていました。(笑)
仕事に対する姿勢も良く、きびきびしている。
接客もそつがない。
お客さんに対しても感じが良く、本当に好感度の高い青年でした。
いやあ、店にこういう人が一人いると助かるんですよ。
何しろ、こちらはポークライスを作りながら、
「次、誰が皿を洗うんだ?」
「お客さん来たぞ!」
「おい、肉焼けたか?」
と、てんやわんやですから。(笑)
そんな中で、鹿島さんのように落ち着いた人がいると、店の空気が締まります。
しかし、4年生だった
ところが鹿島さんは4年生。
卒業を間近に控えていたので、アルバイトとしては短い期間でした。
まあ、こればっかりは仕方ありません。
大学4年生を雇って、
「さあ、これから頑張ってもらおう!」
と思ったら、
「卒業します。」
ですからね。(笑)
そんな鹿島さんが、ある時、風邪を引いて寝込んだことがありました。
「大丈夫かな?」
と心配になり、私は彼のアパートを訪ねて行きました。
突然、店の人間が自宅まで見舞いに来たので、鹿島さんもびっくりしたのでしょう。
「わざわざ来てくれたんですか?」
そんな感じだったと思います。
でも、私はこの時に思いました。
人の心というのは、付き合った年月だけではないんだな。
短い期間でも、心が通じ合うことがある。
そして、それは不思議なことに、年月が経っても消えない。
あれから、もう40年以上です。
それでも今なお、鹿島さんとの付き合いは続いています。
40年ですよ。
普通なら、昔のアルバイト生なんて、
「えーっと……誰だったかな?」
となっても不思議ではありません。(笑)
それが今でも付き合いが続いている。
人生というのは、本当に面白いものです。
そして、分大生が次々とやって来る
鹿島さんを皮切りに、
次から次へと大分大学生、いわゆる「分大生」がやって来ました。
その中で、強烈な印象を残したのが、
鈴木さんと、正憲。
この二人は同級生です。
ところがまあ……
同じ大学の、同じ学年。
なのに、
性格がまるで違う。
人間って面白いですねぇ。
肉を食うことが生きがい、鈴木さん
鈴木さんは、とにかく食べることが大好き。
いや、
大好きなんていう生易しいものではありません。

食べることが、至高の喜び。
その中でも特に、
肉。
肉に対する愛情が、ちょっと普通じゃない。
本人の話によると、育った家庭が、実にエンゲル係数の高い家庭だったそうです。
男兄弟3人。
食卓に肉が出てくる。
すると、
「はい、お兄ちゃんから。」
「次は弟ね。」
なんて、悠長なことはやっていられない。
肉を取った者が勝ち。
兄弟3人で、まるで獲物を奪い合う野生動物のように肉を食べていたそうです。(笑)
そんな環境で育った鈴木さん。
では、なぜ私の店に応募してきたのか?
これはもう、聞くまでもありません。
社食で肉が食べられると思ったから。
……おそらく、それです。(笑)
大学5年生、寮生活
鈴木さんは大学5年生の時、お店の寮に住み込んでいました。
アルバイトが終わる。
店を閉める。
「じゃあ、寮へ帰ろう。」
普通はそうなります。
ところが鈴木さんは、そうはいかない。
帰り道の途中にある町中華のカウンターに座って、
プロレスを見る。
いやいや、早く帰れよ。(笑)
でも、これがまた鈴木さんらしい。
腹が減っている。
プロレスも見たい。
だったら、
食べながら見る。
実に合理的です。(笑)
休みの日は「食べ物屋のはしご」
さらに私が休みの日になると、
「今日はどうします?」
となる。
「飲みに行くか?」
……ではありません。
食べに行く。
しかも、
一軒では終わらない。
「飲み屋のはしご」というのはよく聞きます。
しかし我々の場合は、
「食べ物屋のはしご」
です。
一軒食べて、
「じゃあ、次。」
また食べて、
「もう一軒行きましょう。」
……おいおい。
どこにそんな胃袋があるんだ。(笑)
本当に、よく食う男でした。
今でも会えば、やっぱり焼肉
現在、鈴木さんは神奈川県に住んでいます。
私が出張で東京や横浜へ行くと、
「じゃあ、会いましょう。」
となります。
そして、
焼肉屋へ行く。
まあ、これはもうお約束です。
鈴木さんと会って、
「今日は精進料理にしましょう。」
なんて話には、まずなりません。(笑)
食欲のある人間と一緒に食べると、こちらまで楽しくなる。
そして、不思議なことに、料理まで美味しく感じるんです。
鈴木さんは、肉を食べる時に、顔じゅうの筋肉を使います。
頬いっぱいに肉を詰め込んで、
モグモグ……
モグモグ……
そしてまた、
モグモグ。
その姿は、まさに、
焼き肉怪獣。
「ここからここまで~~~」
以前、横浜へ出張した時のことです。
鈴木さんと伊勢佐木町の「闇市倶楽部」というホルモン屋さんに入りました。
席に着く。
ビールを頼む。
そしてメニューを見る。
すると鈴木さん、
「ここからここまで~~~」
と注文する。
……。
おい。
メニューは注文するためにあるのであって、端から端まで食うためにあるんじゃないぞ。(笑)
しかし本人はいたって普通。
二人でビールを飲みながら、バクバク食べていました。
すると、隣の席にいた老夫婦が、こちらを見ています。
そして、しばらくすると……
「良かったら、これも食べませんか?」
なんと、自分たちのお肉を差し出してくれたのです。
どうやら、
あまりの勢いで食べる鈴木さんに感心してしまったらしい。
「この若者、まだ食えるぞ。」
そんな感じだったのでしょうか。(笑)
いやあ……
鈴木さん。
ついに見ず知らずの老夫婦から肉を恵んでもらうまでになったか。
恐るべし、焼き肉怪獣。
そして、もう一人。正憲
もう一人の「正憲」。
鈴木さんの同級生です。
佐賀県出身。
そして何年経っても、
佐賀弁のイントネーションが抜けません。
それもまた、いいんですけどね。
性格は大人しい。
賑やかな鈴木さんの陰に、すっぽり隠れているような存在でした。
飲み会でも、
「俺が、俺が!」
と前へ出るタイプではありません。
むしろ、人の後ろあたりにいて、
「そうだ、そうだ。」
と相槌を打つ。
それが正憲の役目です。(笑)
鈴木さんが、
「ワッハッハッ!」
と笑っている横で、
正憲は、
「そうだ、そうだ。」
と静かに頷いている。
なんとも対照的な二人です。
派手さはない。でも、実に誠実
正憲には、派手さはありません。
しかし、誠実です。
安心して仕事を任せることができました。
何事も手を抜かない。
コツコツと積み重ねる。
目立つことよりも、
「ちゃんとやる。」
それを続けるタイプでした。
こういう人は、若い頃には意外と目立たないんですよね。
その場では、声の大きい人や、面白い人のほうが目立つ。
ところが、何十年も経って振り返ると、
「あれ?」
となる。
一番しっかりしていたのは、あいつじゃないか。
そういうことが、人生にはあります。
そして、取締役になった
正憲は卒業後、空調設備では世界的な会社に入社しました。
そして、地味にコツコツと努力を重ねていきました。
その結果……
最後には取締役まで上り詰めたのです。
いやあ、立派なものです。
人の期待を裏切らない。
任されたことをきちんとやる。
派手なことはしない。
でも、積み重ねる。
そして、最後には会社の上層部まで行ってしまった。
若い頃の飲み会では、人の後ろに隠れて、
「そうだ、そうだ。」
と言っていた男がですよ。
実は、ただ者ではなかった。(笑)
ブルーザー・ブロディの陰に隠れていた男
それにしても、当時は鈴木さんの存在感が強かった。
私の中では、鈴木さんは、
ブルーザー・ブロディのようなイメージ。
大きい。
迫力がある。
肉を食う。
そして、また肉を食う。
まあ、プロレスラーそのものです。(笑)
その陰に、正憲がいる。
静かに、
「そうだ、そうだ。」
と頷いている。
ところが、40年以上経ってみると……
真の実力者は、正憲だったのかもしれません。
人生、分からないものです。
若い頃の評価と、人生の最終結果は、必ずしも一致しない。
これもまた、長く生きてみないと分からないことですね。
三人三様、それが面白い
こうして並べてみると、本当に面白い。
真面目で理知的な、鹿島さん。
肉に人生の情熱を注ぐ、鈴木さん。
そして、黙々と努力を積み重ねた、正憲。
同じ大分大学からやって来た学生なのに、
まあ、見事なほどバラバラです。(笑)
でも、人間って、それでいいんですよね。
みんな同じだったら、面白くない。
真面目な人がいて、
よく食べる人がいて、
黙ってコツコツ頑張る人がいる。
それぞれ違うからこそ、一緒にいると面白い。
そして、そんな個性豊かな若者たちが、この小さなポークライスのお店に次々と集まってくるようになりました。
もちろん、この時の私は知る由もありません。
まだまだ、とんでもない「分大生」が登場してくることを……。
さて、次はどんな人物が現れるのでしょうか?
ポークライスの話をしているはずなのに、
なぜか人間の話ばかりになっております。(笑)
まあ、これも「幻のポークライス物語」です。
料理は消えても、人間は残る。
そして、思い出も残る。
幻のポークライス物語、まだまだ続きます。
つづく


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