事務所には、小さな金庫がひとつある。

とはいっても、映画に出てくるような立派な金庫ではない。
中に入っているのは、古くなったハードディスクだったり、更新して使わなくなった通帳だったり、ちょっとした契約書だったり……。
まあ、そんなところだ。
「これが盗まれたら大変!」というほどの、現金や金塊が入っているわけではない(笑)。
だから、我が事務所では金庫の管理も実にゆるい。
鍵はほぼ付けっぱなし。
ダイヤルなんて、今までほとんど触ったことがない。
鍵を捻れば普通に開く。
それで何の問題もなかった。
ところが……。
本日、その金庫が開かない!
ちょっと調べ物があり、その書類を金庫から取り出そうと思った。
いつものように鍵を捻る。
……。
……。
開かない。
「あれ?」
もう一度。
カチャカチャ。
……やっぱり開かない。
「え~~~~~~、どうして!?」
そこで、ふと思った。
「誰か、ダイヤルを触ったな!」
しかし、誰が触ったのかは分からない。
とりあえず、家に控えてあったメモを取り出して、書いてある番号を頼りにダイヤルを回してみる。
ところが……
手ごたえがない。
なんだか空回りしているような感じだ。
「ん? これはどういうことだ?」
そこで、すぐにGoogle先生に聞いてみる。
検索ワードは、
「ダイヤル 金庫 開かない」
すると、ちゃんと出てきた。
「ダイヤル式金庫の正しい開け方・手順」
なるほど。
一般的なダイヤル式金庫の場合、
最初の番号は右回りに4回以上回して、番号で止める。
次は左回り。
その次は右回り。
最後は左回りで、番号を合わせる。
最後に「カチッ」と手ごたえがあればOK……らしい。
なるほど、なるほど。
説明を読みながら、何度もやってみる。
右へ回して……
左へ回して……
また右へ……
そして最後に左へ……。
……開かない。
「おかしいなぁ……」
またやってみる。
開かない。
もう一度やってみる。
やっぱり開かない。
こうなってくると、
「そもそもダイヤルが回らないのか?」
「いや、回ることは回る」
「じゃあ、番号が違うのか?」
「でも、メモにはこの番号が書いてある」
「じゃあ、回し方が違うのか?」
……。
だんだん分からなくなってきた。
そして、ふと思う。
「これ、素人が何時間やっても無理なんじゃないか?」
ということで、ついにプロにお願いすることにした。
「鍵の110番」に連絡。
電話をすると、対応してくれた方がとてもハキハキしていて感じがいい。
金庫のおおよその大きさや状態を説明すると、すぐに見積もりを出してくれた。
「出張費込みで15,000円です」
とのこと。
金額も納得できる範囲だったので、
「お願いします!」
と、来てもらうことにした。
そして、いよいよプロの登場。

私としては、
「さあ、どうやって開けるんだろう?」
と興味津々。
頭の中では、テレビで時々やっている、
「金庫を開ける職人さん」
の姿が浮かんでいた。
金庫に耳を当てて、
「……カチッ」
「ここだ!」
なんてやる、あの世界である。
しかし、現実はそう簡単ではないらしい。
どうやら、耳を当ててダイヤルの音を聞きながら番号を探っていくというのは、かなり特殊な技術が必要なのだそうだ。
なるほど。
テレビでは簡単そうに見えるけれど、やっぱりプロの世界は奥が深い。
そして、もう一つ衝撃の事実が。
ダイヤルを壊して開けるほうが安いらしい。
「えっ、壊しちゃうんですか?」
と思ったが……
よく考えてみれば、我が事務所の金庫。
そもそもダイヤルなんて、ほとんど使っていない。
鍵さえあればいい。
ということで、
「ダイヤルはもう要りません。壊して、鍵だけで開け閉めできれば、それでいいです」
とお願いした。
そして作業開始。
プロの手によって、金庫は無事に開いた。
やったー!
これでようやく、お目当ての書類を取り出すことができる。
ところが……
ここで、さらなる事実が判明。
なんと、
家に控えてあったメモの番号が違っていた。
……。
……。
犯人、私でした。
「誰かダイヤル触ったな!」
なんて疑っていたのに、
そもそも教えてもらった番号が間違っていたというオチ。
いや~、これは金庫が悪いわけでもない。
ダイヤルが悪いわけでもない。
Google先生が悪いわけでもない。
もちろん、業者さんが悪いわけでもない。
全部、私のメモのせいでした(笑)。
考えてみれば、最初から正しい番号が分かっていれば、こんな騒ぎにはならなかった。
金庫の前で悩み、
Google先生に聞き、
何度もダイヤルを回し、
最後にはプロまで呼んで、
そしてダイヤルまで壊してしまった。
なんとも壮大な「金庫開かない事件」である。
とはいえ、今回お願いした業者さんは、とても丁寧で、説明も分かりやすく、終始感じの良い対応だった。
作業も手際がよく、安心してお任せすることができた。
結果的には、金庫のダイヤルはなくなってしまったが、

我が事務所には、鍵さえあれば十分。
これで次回からは、ダイヤルのことで悩む必要もない。
……というより、
もう悩めない(笑)。
今回の教訓。
「金庫を開ける前に、まずメモを疑え。」
そして、
「自分の記憶とメモほど、当てにならないものはない。」
ということを、身をもって学んだ一日でした。
それにしても……
「誰かダイヤル触ったな!」
と疑っていた自分に、今なら言いたい。
「犯人は、お前だ!」
金庫との戦いは、金庫の勝ち。
そして私は、15,000円を払って、
「メモは正確に書きましょう」
という、ありがたい授業を受けたのでありました(笑)。


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